ウレシパモシリ はぐくみ合う大地                 おおえ まさのり

 この夏、北海道平取町の二風谷に住むアイヌ民族アシリ・レラ(山道康子)さんを八ヶ岳の山ろくに招き、「ウレシパモシリ(はぐくみ合う大地)―アイヌ祭りin八ヶ岳」(七月二十五〜二十七日)が開かれた。
環境教育に取り組むキープ協会(北杜市高根町清里)の森の中でのカムイノミ(神々への祈り)からそれははじまった。その後、清里の森の中で,ユーカラ(アイヌ民話)の詠唱に聞き入り、レラさんと暮らす子供達によるウポポ(歌)やリムセ(踊り)を目の当たりにした。午後からはアイヌ文様の刺繍(ししゅう)のワークショップが開かれ、緑の木陰で参加者は熱心に針を運んだ。翌日は会場を長野県富士見町の井戸尻縄文遺跡公園に移して、トークと歌や踊りを楽しんだ。
 
 カミの宿り

「自然保護なんて、とんでもない。わたしたちは自然の一部で、自然の中で生かされているんです。」とレラさんはいう。アイヌの人々にとって、カミとは、大自然そのものであり、そのうちに宿る精霊やスピリットであり、この世界はそうしたスピリットの現れに他ならない。
 レラさんは天女山や井戸尻縄文遺跡でもカムイノミを行った。それらのカムイノミに参加していると、大地が祈りの大地へと変わってゆくのが感じられた。祈りは、信仰や宗教以前の、人間の心の最も基底にある、存在の基層ではなかろうか。
 祈ることによって、はじめて世界は、生命あるものとしてわたしたちの前に立ち現れ、わたしたちが祈りを失うと、世界もまた生命を失ってゆくように思われる。

 縄文はアイヌ

 縄文遺跡に富む八ヶ岳の開催の、もう一つの主題は、縄文とアイヌの出会いに会った。「縄文の、縄の捻(ねじ)りの文様はアイヌにもある。縄文というのは、文様のことであって、縄文はアイヌですよ。」と、レラさんはいう。
 井戸尻でのコンサートの合間に、隣接する井戸尻考古館をあらためて訪ねてみた。これまでは単なる文様にすぎなかったそれらの文様が、ぐるぐる回りながら、私の心の内に立ち上がってくるのが感じられた。アイヌと結びつくことで、縄文が現代へと、生き生きと浮かび上がってきたのだ。−想像力豊かなアニミズムの命が。それは必ずしも血脈の問題なのではなく、わたしたちの心の中に息づく精神や世界観の問題にあるのでは。わたしたちは、すべての人が太古とつながっているのだから。

 持続可能な社会

 七月はじめに、先住民サミットが北海道平取町で開かれ、世界二十二民族が参加して、主要八カ国(G8)への提言をまとめた。「先住民族の生き方こそ、持続可能な社会をつくる最も効果的な道」だと。またアイヌ民族をわが国の先住民として認め、その権利を回復すべきだとの国会決議が出された。
 だが今まさに問われているのは、先住民の権利ばかりか、わたしたちの文明そのものだ。わたしたちの文明には、いまや絶望が広がり、未来の展望は閉ざされたままだ。だが、先住民の文化の中には未来が広がっている。そこには命の輝きがあり、はぐくみ会う大地ーウレシパモシリがあり、人類のよるべき精神のコスモロジー(宇宙観)があるのが見える。

                       (作家・北杜市白洲町在住)

ヌペキ ペケレさんの招待で行ってきました。 アシリレラ
 

 
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